本の検索
書籍検索すべての子どもの権利を実現するインクルーシブ保育へ
多文化共生・障がい・家庭支援・医療的ケア
内容
好評2刷!
多様な背景をもつ子どもたちが増える中、どの子も排除されず、生きいきと育ち合える保育はどうしたら実現できるのか。それは従来の保育とどう違うのか。現在進行中の4つの実践と海外の事例から、インクルーシブ保育で大切にしたい共通のポイントを探る。
目次
序章 インクルーシブ保育の風景
第Ⅰ部 実践から学ぶインクルーシブ保育のポイント
第1章 「多文化共生」実践
違う文化っておもしろい
第2章 「脱・あるべき姿」実践
どの子も「気になる子ども」になったとき
第3章 「保育者の協働」実践
「また今度ね」と言わなくてもいい保育へ
第4章 「医療的ケア児」実践
医療的ケア児の意見表明から考え合う保育
第5章 世界のインクルーシブ保育
スウェーデンと韓国におけるカリキュラムの動向と実践
コラム① 外国にルーツのある子どもたちの現状と保育の課題
コラム②「統合」から「インクルーシブ」へ
コラム③ 子どもと保育者を主体とする巡回相談
第Ⅱ部 インクルーシブ保育への道しるべ
第1章 意見表明権の保障にもとづく「参加」のプロセス
1 子どもたちの対等・平等の意見表明のために
2 インクルーシブの過程と「参加」の質的発展
第2章 多種多様なインクルーシブ保育が共有する原則とは
1 障がいの社会モデル
2 保育の中にある社会的障壁
3 インクルーシブ保育実践において重視される原則
4 保育形態とインクルーシブ保育との関係
著者の略歴
芦澤清音(あしざわきよね)
発達障がい児を中心に「ともに育つ保育」の視点から研究と保育者養成、保育現場の巡回相談に携わる。帝京大学教育学部教授。
浜谷直人(はまたになおと)
かけがえのない子どもたちが保育の場に「参加」することを大切にしてインクルーシブ保育の理論研究に取り組む。東京都立大学名誉教授。
五十嵐元子(いがらしもとこ)
東京都内で保育現場の巡回相談に携わり、子どもや保育者の「対話」をテーマに研究を進めている。白梅学園大学子ども学部准教授。
林恵(はやしめぐみ)
生活する社会と異なる外国の文化で育つ子どもたちを中心に、マイノリティと保育について研究を進めている。足利短期大学こども学科教授。
三山岳(みやまがく)
保育現場の巡回相談を通じて、インクルーシブな環境の形成に取り組む保育者の支援のあり方を研究している。愛知県立大学教育福祉学部准教授。
飯野雄大(いいのたけひろ)
保育・学校現場での巡回相談等に携わり、現在は保育者・教師の「所属感」に関心をもって研究に取り組む。山梨学院短期大学保育科准教授。
山本理絵(やまもとりえ)
保育者や学生と一緒に実践検討しながら、集団関係の発展と保育者の役割について研究を進めている。愛知県立大学教育福祉学部教授。
読者からの声
「私たちは、どの子も排除されることなく、一人ひとりの意見がいかされ、多様な子どもがいるからこそ豊かな環境が生み出され、子どもが相互に影響しながら生きいきと育ち合っていく保育をインクルーシブ保育と呼んでいます」(3ページ)
「インクルーシブ保育は、支援児だけが特別な子どもという見方に立ちません。健常児もまた、一人ひとりが違うこと(多様性)を前提とします。すべての子どもが、一人ひとりかけがえのない、特別であり異なる子どもであるということが基本です」(13ページ)
本書は、言葉で具体的に説明することが難しい「インクルーシブ保育」を、園での実践の経過と理論的な解説を交えて、分かりやすく示しており、実践者にも、そして研究者にも、大変参考になる書籍です。
インクルーシブ保育と聞くと、障害のある子どものことが思い浮かぶことが多いと思われますが、本書の第Ⅰ部では、外国につながりのある子どもや、医療的ケアの必要な子どもの事例が丁寧に記述されており、インクルーシブ保育とは、ある特定の子どもに対する特別な支援だけを指すのではなく、目の前にいる多様な子どもたち一人ひとりの声や思いを聴き取りながら、既存の保育の在り方を問い直し、変更していく過程であることが理解できます。行事の内容を変更したり、保育の形態を変えたり、変更の内容は園によって様々ですが、そこに通底しているのは、子どもらしい生活とは何かを問い直しながら、子どもの気持ちを大切に、子どもの声を聴き取り、保育を変えていこうとする保育者の真摯な姿勢です。
インクルーシブ保育を実現するためには、多様な子どもたち一人ひとりの声を聴き取る姿勢を保育者がもち、対等・平等な参加の保障を目指すことが望まれます。第Ⅱ部では、子どもの権利条約で定められている意見表明権を基に、第Ⅰ部の事例の解説を交えながら、インクルーシブ保育が質的に深まっていく過程を理論化するとともに、インクルーシブ保育を実践する際の原理について示しています。
本書は、インクルーシブ保育を主題としていますが、事例として取り上げている園は、初めから保育をインクルーシブにすることを目指していたわけではありません。既存の保育の在り方を見直し、子どもたちの声や思いに応える保育を追求していった結果、保育がよりインクルーシブになっていったと考える方が適当でしょう。本書の事例や論考をきっかけに、子どもの声を聴き取り、多様な参加の在り方を大切にした保育実践が、多くの園に広がっていくことを期待します。(2023.12.05)
いま、明日、の保育を見通したいとき、素敵な本に出会いました。『すべての子どもの権利を実現するインクルーシブ保育へ』、ひとなる書房、2023年4月発行。著者は、芦澤清音、浜谷直人、五十嵐元子、林恵、三山岳、飯野雄大、山本理絵、以上の先生方。
私が学んだことの一つは、インクルーシブ保育に至る歴史が、わかりやすく書かれていることです。著者の浜谷先生は、80年代頃からを振り返りながら、以下のように述べます。
「最重要な違いですが、インクルーシブ保育は、支援児だけが特別な子どもという見方に立ちません。健常児もまた、一人ひとりが違うこと(多様性)を前提とします。すべての子どもが、一人ひとりかけがえのない、特別であり異なる子どもであるということが基本です。」ー本書13頁。
78年から保育現場に入り、80年代、90年代と地方での限られた経験でしたが、障害をもつ子ども、その親たち、職員とともに、悩みながら障害児保育の実践をしてきました。本書のタイトルーすべての子どもの権利を実現するインクルーシブ保育へーは、いま、明日の保育を、創造していくための、力強いメッセージがこめられています。本書に、あたたかく励まされました。
学び確かめることができたのは、いま、明日の保育を見通したいとき、子どもの権利条約に基づく保育の大事さです。本書の著者、芦澤先生は、以下のように指摘されています。
『子どもの声からはじまる保育の価値が確認されたといえるでしょう。コロナ禍は、二度と経験したくはないですが、多くの園にとって価値観の見直しを迫られる経験でもありました。どんな価値観を大事にして、そのためには、どんな保育が望ましいのか、そう考えるとき、新たな保育のあり方が模索されます。』ー本書205頁、206頁。
本書では、外国にルーツのある子ども、家庭の複雑な背景を抱える子ども、発達が気になる子ども、医療的ケアか必要な重い障がいのある子どもたちがいる、実践現場からの具体的な記録がつまっています。私たちが、自らの価値観、保育観、子ども観、人間観、などを学び、問い直す、深めていく課題だと思いました。子どもの権利条約の意見表明権により、すべての子どもの、声、願い、ことば、表情などに、心を傾けたいです。保育者としての、生きがいをも、見いだせる本ではないでしょうか。実践には、困難さもありますが、率直な学び合いができると思います。(2023.07.06)