「月刊全労連(2024年10月号)」に『日本の保育士配置基準を世界水準に』の書評が掲載されました! ぜひご覧ください。
76年ぶりに保育士配置基準を改善させた、あきらめない力
全労連事務局 大久保なつみ
0歳児は3人、1・2歳児は6人、3歳児20人、4、5歳児30人。日本の保育士が一人当たり受け持つ子どもの数だ。
2023年12月、山が動いた。こども家庭庁が4・5歳児の保育士の配置基準を、「子ども30人に1人」から「25人に1人」に見直す方針を示したのだ。3歳児についても、20人に1人から15人に1人へと改定された。
本書は、保育士配置基準の改定を求めて2022年1月に立ち上がった保育士・保護者有志の会「子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会」の運動を追ったものだ。
自治労連愛知県本部や福祉保育労東海地本や愛知県内の保育団体、保護者などが参加する実行委員会は、統一地方選挙やこども家庭庁副大臣との懇談などいくつかのピークを設定したキャンペーンを展開。のべ16,644人の保育者や保護者が、アンケートや手紙に自分の思いを綴った。2,320人が街頭に立ち、愛知県のみならず全国151市町村県議会が配置基準改善の意見書を提出するに至った(2024年3月現在)。
きっかけはコロナ禍での「少人数保育」
コロナ禍の緊急事態宣言下で、登園する園児の数が半分程度になった。そのとき保育者は、いつもは忙しさで聞くことのできない子どもたちの声に応じられるようになったことで、「これが私たちの本当にやりたい保育なのだ」と気付いたという。普段の保育では子どもの権利が守り切られていないことを、保育者は身を持って確信した。それがこの運動の始まりだった。
それまでは、30人の幼児を1人で掌握できなければ一人前でない、と自分を責めていた。1人ひとりの子どもに向きあおうとする後輩保育士に、効率を求めた。
保育士が悪いのではない、国が決めた配置基準という「ノロイ」が保育士をがんじがらめにしてきたのだ。
「声をあげていい」それがみんなを解放した
運動に参加した3年目の保育士は、「何より一番驚いたことは、『もっとよりよい保育をしたいから配置基準を変えたい』と声をあげてもいいということ」と語っている。実行委員会が活用したSNS上でも「私のエピソード」が呼び覚まされ、拡散されていった。理想と現実の間でもがく保育者自らが次々とエピソードを語り、運動を広げていった。
この運動の最大の特徴は、1950年頃から続く保育運動の「保護者と一緒に運動をつくる」という教訓を生かしたことだと実行委員会は振り返る。とにかく一緒にやる。さらに、リーダーは置かない・メンバーは平等、感動は熱いうちにみんなで共有、出されたアイデアは全部採用など、「10の流儀」を徹底し、多くの人が運動に参加できる配慮もされた。
労働者と利用者という関係を超えることができれば、社会は変えられる。そんな希望を示す一冊だ。
『日本の保育士配置基準を世界水準に――一周回って新しい ワクワクが連鎖していくムーブメントのつくり方』
子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会 編著
ひとなる書房・2024年8月26日発売・1,400円+税